
筑波大学名誉教授 村上 和雄

皆さん、こんにちは。(拍手)
毎度のことなのですが、神谷名誉会長が話された後は、とても話しにくいのです(笑)。しかも、私が言おうと思っていたことを、先取りされてしまいました(笑)。しかし、本日は皆様に話をする機会をいただきまして、本当にありがたく思っています。
私は最近、“祈り”は私たちの人生にとって、とても重要な行いであると考えるようになりました。
そう考えるようになりましたのは、天皇皇后両陛下にお目にかかったことが、大きなきっかけになっていると思います。
お側に仕える方から、天皇陛下は、日々、私たち国民の幸福と世界の安寧を熱心に祈っていらっしゃると伺い、心から感動したのです。
一昨年の5月に、宗教学者である京都府立医科大学の棚次正和教授との共著で、『人は何のために「祈る」のか』という本を出しました。
“祈り”には、私たちの潜在的可能性を目覚めさせる、とてつもない力が秘められているのです。
これまでに私がお会いした方々のなかで、祈りに篤い方のお一人は、チベット仏教の最高指導者、ダライ・ラマ14世であり、もうお一人は、南アフリカの人種隔離政策(アパルトヘイト)を廃止させ、人々の和解に尽力しておられる黒人のデズモンド・ムピロ・ツツ大司教であります。
1994年に南アフリカ共和国の大統領が、白人から黒人であるネルソン・マンデラさんに変わりました。マンデラさんは反アパルトヘイトの闘士として活動したため、27年間も投獄されるなど、白人達からものすごい迫害を受けられました。しかし大統領就任式には、投獄されていた時の看守を招いておられるのです。すごい方です。
政権が変わりましたから、今度は白人への報復が心配されましたが、「私達は赦しましょう」というツツ大司教の呼びかけで、復讐の連鎖は止められました。マンデラ大統領はこのツツ大司教とペアを組んで、南アフリカ共和国を治めてこられたのです。
私は2006年に、広島で開かれた「国際平和会議」の総合司会を務めさせていただき、このお二人(ダライ・ラマ14世、ツツ大司教)のほか、北アイルランドの紛争で犠牲になった子供達のために平和の行進を行った、ベティ・ウィリアムズさんの、3人の「ノーベル平和賞」受賞者にお会いしました。
その時、ツツ大司教は癌を患(わずら)っておられましたが、体から溢れるようなエネルギーを発しておられました。
彼は人を赦すことができる人が、本当の宗教家であると言います。何故、赦せるのかといえば、それは「起こる全てのことは、神様からのメッセージであると受け取れるからだ」と言っております。
彼らに共通した素晴らしいところは、熱心に祈られることです。そして、祈るだけではなく、問題解決のために実際に行動に移しておられるところです。
“祈る”ということについては、私自身も、私の両親や祖母から信仰を受け継ぎまして、幼稚園の頃から70年間、毎朝祈り続けて来ました。それが私の原動力になっていると思っております。(拍手)
私自身は、科学者としては、特に悪くもないのですが、特に優れているというわけではない。信仰者としても、特に優れているわけではありません。しかし、今になって思うのは、信仰と科学という両者が、私の中で共存したということなのです。これは本当にありがたいことだと思っております。(拍手)
そして、私の中で共存していた宗教と科学が、遺伝子暗号を読み始めてからは、共存を越えて、共鳴しだしたのです。
どういうことかと言いますと、遺伝子暗号を読んでおりますと、細胞に書き込まれている、科学の文字の精緻な美しさや素晴らしい力は、人知を超えるものを考えなければ説明ができない。言ってみれば、科学の世界で、神様の働きを見たのです。
とにかく研究を進める上で、私が聴いてきた神様の教えというものが、非常に良く役に立つ。祈る心と科学する心が、見事に調和したわけです。
現在私共は、「心と遺伝子」の研究をしておりまして、心と遺伝子はどういう関係にあるのかを究明したいと思っております。
そのような私共の研究を応援してくださったお一人に、河合隼雄さんがおられました。臨床心理学の大家であり、深層心理学のユングの研究の第一人者です。また、文化庁長官も務められました。私に、「心と遺伝子の研究はこれから重要であるから、頑張ってやってくれ」とおっしゃってくださいました。
そして「もっと面白いことがあるで」とおっしゃるので、「何ですか?」と聞いたら、「魂と遺伝子の研究や、俺はそれをやってみたい」とおっしゃるのです。
心ならまだ心理学という学問があります。しかし、魂についての学問はない。ところが河合さんは「絶対に面白い」とおっしゃるのです。それで私は、「本気でやるつもりですか?」と聞いたら、「本気だ」とおっしゃるので、「それでは、文化庁長官を辞めてください。そのような研究は片手間ではできませんから」と言いましたら、「俺は長官やなくて、夕刊や」とおっしゃいました。(笑)
河合さんはとても面白い方でした。学者としても一流でありましたが、非常にユーモアのセンスがあられた。ある日、「俺は、日本嘘つきクラブの会長をやっている」とおっしゃるので、「本当にそんな会があるのですか」と聞いたら、「それは嘘つきクラブの会長が言うとるのだから、余り信用してもらっては困る」と(笑)。「しかし、嘘がこの世から全くなくなってしまったら、結婚式なんて成り立たないだろう」と。(笑)
もちろん人を騙すような嘘は駄目ですが、嘘というのも一つの潤滑油であるというわけです。こういう面白い方でした。
私もできれば、将来、この河合さんが提唱された「魂と遺伝子」という研究にまで取り組んでみたいと思っております。(拍手)
それとともに、吉本興業と組みまして、笑いが遺伝子にどのような影響を与えるのかという、「笑いと遺伝子」の研究もやっております。この研究も不思議な導きで、吉本興業との出会いをいただきました。
しかし私は、決して偶然ではないと思っております。何故なら、私は科学は知的なエンターテイメントだと思ってきたからです。
吉本の芸人さん達の漫才を観ると、高血圧や糖尿病の患者さん達の血圧や血糖値が下がり、癌患者の免疫力が上がるわけです。「笑いがどの遺伝子のスイッチをオンにするのか?」という研究をこの5年間ズーッとやっておりまして、一昨年、私の研究所から、世界で初めて「笑いと遺伝子」研究の博士が誕生しました。(拍手)
現在私は、「日本笑い学会」という学会に入会して研究を続けておりますが、笑いは笑いごとではないのですね。(笑)
先程、こちらに参りましたら、笑いの練習をなさっていました。また、『生命の實相』にも笑いの重要性が説かれていることを勉強させていただいています。世界各国の民族の神話にも笑いがたくさん出てまいります。ということは、神様も仏様も笑いがお好きで、大いに笑っておられたのかも知れません。日本の神話にも、天照大御神の天の岩戸開きの神話があります。
笑いと言えば、ダライ・ラマ14世もよく笑われます。彼が入って来るだけで、周囲が明るくなってエネルギーが漲るのです。一緒に写真を撮る時など、「お前は笑いの研究をしているのだからもっと笑え」と、私の耳をくすぐったりします(笑)。そして、彼は祈りの人でもありますから、午前中は瞑想と勉強に時間を費やしています。チベット問題の解決に向けて、彼はニコニコ顔で命懸けであります。
私はそういう関係で、チベット仏教のお坊さんとも親しくなりました。なかには面白いお坊さんがいて、チベット仏教は死後の世界が20あると説いていると言うのです。「えっ、20。何で?」と聞いたら、4×5(しご)=20だと(笑)。なかなかユーモアがありますね。
また、イエス・キリストもよく大笑いをしていたという牧師さんがおりました。私共には想像しにくいのですが、イエスはもっと大らかな方で、様々な人々のところへ行かれて、共にお酒も飲み、大いに笑いながら導かれたのだと。
仏教も笑いと関係があると言われております。説法をする時に、笑いを取り入れられたということを「笑い学会」で勉強しております。
私が面白いと思ったのは、胎児が笑うということです。スライドを観ますと、胎児がニッコリ笑っているような顔をしていますが、あれは笑いと言うよりスマイルですね。エンジェル・スマイル、「天使の微笑(ほほえ)み」ですね。仏教のお坊さんは、この微笑みを布施行であると言います。赤ちゃんは人に物を与えることができませんので、微笑むことによって、周りの人々に幸せと喜びを与えているのだと。ということは赤ちゃんはスマイルする能力を持って生まれて来た。笑いに関連する遺伝子があるということです。
笑うことでどの遺伝子のスイッチがオンになり、どの遺伝子のスイッチがオフになるのか、という実験をやりまして、その結果が出ています。まだ全部の遺伝子の解読はできておりませんが、簡単に言いますと、健康になるための遺伝子のスイッチがオンになり、病気になるための遺伝子のスイッチがオフになる。そういう結果を得ております。
そして最近、私は「祈りと遺伝子」の研究をスタートさせたいと思っております。
現在アメリカでは、非常に大きな医学の変動が起こりつつあります。どういう変動かと言いますと、今アメリカでは、西洋医学だけを信用している人は5割を切っていて、5割以上の人はもう西洋医学だけでは治らないと考えているのです。ベンジャミン・フランクリンという政治家などは、「神が病気を治し、医者が治療代を取る(笑)」なんて言っています。
もちろん西洋医学は、手術だとか、初期の病とか、感染症などには効力を発揮しますが、慢性の高血圧とか糖尿病や癌などは、お手上げなのです。今の医学では慢性病に対しては殆んど無力なのです。
それで、アロマや鍼灸、瞑想など、とにかく今まで西洋医学が全く相手にしなかった分野に人々が走っているというのを知り、アメリカ政府は驚いて、そういう医療の研究に力を入れ出しました。
“統合医療”といって、西洋医学と東洋医学を統合し補完する。その研究に力を入れており、その研究が非常に進んできて、何百という論文が一流の医学雑誌に出ております。
まだまだ不充分ではありますが、私が面白いと思ったのは、祈りによる治病実験です。
アメリカ東海岸に住む人が、西海岸の病人のために祈る。何百人という人々が、祈られる側と祈る側のグループに分かれて祈る。もちろんこのことは、患者もドクターも誰も知りません。全体のディレクターだけが知っている。そうしないと、祈られていると知っただけで病気が治ることがあるからです。偽薬(プラシーボ)効果と言います。
それで祈られた患者のグループと、祈られていない患者のグループに差があったかどうかを調べたところ、差が出たという報告が最近ありました。逆に出ないという報告もあり、まだ議論の最中ですが、ハーバード大学やコロンビア大学など、権威ある大学が研究に前向きで、「精神神経免疫学」などと呼ばれて、今や最先端の研究分野になりつつあります。
この分野については日本はまだ出遅れております。私は何とか「祈りと遺伝子」の研究を立ち上げたいと思っていろいろ研究をしておりますが、これはなかなか難しいのです。だから先ず、“感謝と祈り”とか“感動と祈り”について研究して論文を発表し、「祈りと遺伝子」の研究を科学の土俵に乗せようと、そういうふうにやっていきたいと思っております。
私は63歳で大学を退官した時に、18歳で大学に入学し63歳まで大学にいて、それ以外の世界を知らないのだから、落第を重ねてやっと大学を卒業したのだというふうに思いまして、新しいスタートに立って、これから何をやろうかと考えておりました。
そう思っていたところ、ある日新聞を読みましたら、アメリカがイネの遺伝子暗号の解読を宣言したと知り、これは許せないと思いました。
何故なら私達日本民族のルーツはイネです。これは何としても負けられないと思いました。何故イネかと言いますと、小麦、大麦、トウモロコシなど全部イネ科です。イネの遺伝子暗号が解ると他の食物の遺伝子暗号も推定がつくからです。
しかし勝つためには大型の予算をつけてもらわなければなりません。大学を辞めていましたから、何もかもゼロからの出発でした。しかしいろいろな人の尽力によりまして、40億円の予算を確保できました。
それからはもう寝食を忘れて研究に打ち込み、特に最後は若い人たちが本当によく頑張ってくれまして、3万2千個あるイネの遺伝子暗号の半分の1万6千個は我がチームが解読しました(拍手)。日本のためにやってやろうと、日の丸を背負ったような気持ちで頑張りました。
一口に1万6千個と言いますが、1万個に1個間違えても駄目なのです。だから同じところを何度も何度も繰り返して読む。それができたということは、私共の誇りであります。皆、睡眠時間を削り、体重を削りながら頑張り、見事、日本が断然、世界のトップに立ちました(拍手)。イネの全遺伝子の百科事典をつくることができたのです。この研究は、私の現役の時の研究よりも、おそらく将来に残るものだと思います。(拍手)
イネの遺伝子暗号の解読が終わりまして、「心と遺伝子」の研究を始めました。病気が悪いストレスから起こるとすれば、良いストレスもあるはずだと思いました。
それは陽気な心ですね。日々を生き生きと生きること、喜ぶこと、感謝すること。そのような陽気な心は血糖値を下げる力があるかもしれないと思っていた矢先に、吉本興業の社長と不思議な出会いをしたのです。
このようにして、心の変化が遺伝子に影響を及ぼすという研究が始まったわけです。私はこの研究も、私の現役の時の研究よりも、将来に大いに良い影響を及ぼすと思っております。(拍手)
研究を続けて行くうえでは、お金がかかりますので、その調達にずっと苦しんできましたが、いよいよ困って切羽詰まった時に、経済同友会の諸井虔(けん)さんという、当時秩父セメントの社長が、私達の研究に賛同して、ポンと5億円出してくださいました。やはり天は見捨てないのですね(拍手)。世の中には足を引っ張る人もおりますが、人様を助けてやろうという人もいらっしゃる。こういう奇蹟的なことが研究の途中で起こります。
人の遺伝子暗号が解ったのは、今から7、8年前ですが、その時に1人の遺伝子暗号の解読に1千億円のお金がかかりました。何千人という技術者、科学者が寄って1千億円かかったのです。しかし、あと10年経てば、自分の全遺伝子暗号が30分で解るようになる。10万円出せば解る時代がくる予定です。そうなれば、知りたい人は自分の遺伝子暗号をカセットに入れて病院に持って行けば、オーダーメイドの医療と予防が現実になりますね。
しかし、私は前から遺伝子暗号の解読よりも、もっと凄いことに気がついていました。
それは気づけば当たり前のことなのです。遺伝子暗号は“解読する前から既に書いてあった”ということです。書いてあったから読めたわけでしょう。
では書いた人と読んだ人はどちらが偉いの? これは仏典を書いた人とそれをちょっとだけ読んだ人とどっちが偉いのということと同じことです。それはもちろん書いた人ですよね。(次号に続く)
◯平成22年1月16日 於:かながわ菩薩練成会◯